Makeblockは、2020年4月より東京大学大学院 情報学環 山内研究室が行うSTEAM教育に関する研究を支援しています。本研究プロジェクトでは、STEAM教育の研究テーマとして、(1) STEAM教育の歴史・概念・実践の整理、(2) 日本の初等中等教育におけるSTEAM教育のカリキュラム的位置づけ、(3) STEAM教育・教材の評価方法の開発 の3つのテーマを設定しています。現在は、上述したテーマの1点目であるSTEAM教育の歴史・概念・実践の整理を行っており、まずSTEAM教育の源流であるアメリカの歴史について検討し、山内研究室は5月末に教育関係者向けの公開研究会「STEAM夜話 Vol. 1」を開催しました(開催レポート:『STEAM教育とは?アメリカの教育政策における位置づけと2つの源流』)。2020年8月26日には、第2回目となる公開研究会「STEAM夜話 Vol.2」が開催され、定員の50名を超える教育関係者が参加しました。今回は、韓国と中国でどのようにSTEAM教育が導入されてきたのかを検討しました。
本記事は、山内研究室の許可を得て、研究会で東京大学大学院 情報学環 杉山特任研究員が発表された内容について、当日使用された資料をもとに開催レポートとしてまとめたものです。同研究室が公開している開催報告はこちらから、参考文献は資料をご参照ください。
1. 韓国におけるSTEAM教育
韓国のSTEAM教育は10年以上の蓄積があり、早い段階から国家カリキュラムの中にSTEAM教育が組み込まれてきました。それには「韓国STEAM教育の伝道師」と呼ばれるキム・ジンスが、ジョーゼット・ヤックマンとの交流の中でその影響を受けて、韓国でもSTEAM教育の推進活動を行ったという背景があります。
韓国では、様々な分野の知識を生かして新しいものを創り出そうとする人材である、創意・融合型人材の育成を主たる目的としてSTEAM教育の研究が進められてきました。2009年の国家カリキュラムで融合型人材の育成が志向され、続いて2011年に融合型人材の育成としてSTEAM教育の研究が本格的に進められるようになりました。また、韓国では国際学力調査において、理数科目の成績が良いにもかかわらず、生徒たちの理数科目に対する興味関心が低いという課題がありました。そこで、学習意欲を高めると考えられていたArtsの要素を理数系の教育であるSTEMに加えることで、生徒たちの興味関心が高まるのではないかという期待もありました。
韓国では初等教育を中心にSTEAM教育が行われています。全国小中高11,526校への質問紙調査で「STEAM教育を実施している」と回答したのは、小学校では30.8%、中学校では27.4%、高校では17.5%という結果でした。これは、中央教育審議会において高校でのSTEAM教育の導入が議論されている日本とは対照的であると言えます。そんな韓国のSTEAM教育研究は、KOFAC (韓国科学創意財団) が中心となって実施しています。KOFACは、ウェブサイト上でSTEAM教育を実施するための指導案の公開も行っており、バイオテクノロジー、最先端ICT教育、認知技術、ロボット技術など科学技術の色が強い教育に、創造性を加えた教育プログラムを推進しています。
このように韓国では、初等教育を中心に創意・融合型人材の育成を目的としてSTEAM教育が進められ、理数科目への興味関心を集めるツールとしてArtsが取り入れられています。
2. 中国におけるSTEAM教育
中国では、情報技術教育の文脈の中でSTEAM教育が取り入れられてきました。2012年には、情報教育にScratchを導入しようという流れの中で、初めて「Scratch言語教育交流会」が行われました。その発展形として、2013年に浙江省温州中学校で「第1回STEAM教育イノベーションフォーラム」が開催され、その中で「STEMからSTEAMへ」という発表とともに、ヤックマンのSTEAM教育が紹介されました。
国家的にSTEAM教育が言及されたのは、2016年の「第13次教育情報化5カ年計画」においてでした。ここでは、新しい教育モデルの中で、リベラルアーツに近い意味を持つ「学際的学習」としてSTEAM教育が挙げられています。さらに、STEAM教育が「メイカースペース」やものづくりを基盤とした教育である「メイカー教育」と並列的に扱われているという特徴があります。温州中学校メイカー教育スタジオの責任者で、前述したフォーラムの主催者でもある谢作如は、STEAM教育とメイカー教育を同義の言葉として使っており、これらはあまり区別されずに扱われています。このように、中国におけるSTEAM教育は、メイカー教育やSTEM教育と同じように扱われています。
中国のSTEAM教育は提供形態にも特徴があります。「中国STEAM教育発展報告」に記述されている調査の中で、「STEAM教育(またはSTEM教育、メイカー教育、技術革新コース学際的統合コース)を週に1時間以上実施している」と回答した小中学校は92%でしたが、小中学校におけるSTEAM教育の半数以上は教育研究機関や教育系企業によって提供されています。講師の派遣も含めて、授業自体を外部の組織・機関に依頼するかたちによって実施している場合が多く、STEAM教育が企業中心に進められているという傾向があります。それ故に、その授業方法は公開、共有されにくいという特徴もあります。
このように、中国のSTEAM教育は情報・ICT教育教育と共に進められ、メイカー教育やSTEM教育と同義のものとして扱われる傾向があります。Aの扱いとしては、ものづくりを基盤とした教育の中でリベラルアーツの要素は含まれつつも、Artsの要素は薄いといえます。STEAM教育の授業が企業を中心にして提供されていることも特徴の1つです。
3. 韓国、中国におけるSTEAM教育のまとめ
韓国や中国に共通してみられるのは、技術教育や情報教育の関係者が受容してきており、どちらもArtsの要素は薄いということです。また、韓国では「A」を理数科目への関心を高めるためのツールとして利用しており、中国では、ものづくりを基盤とした教育の中で、他分野にわたる知識を利用するという意味合いで「A」を捉えている傾向があります。さらに、各国のSTEAM教育の特徴としては、韓国では特に小中学校での実施がメインであり、中国では企業が中心に進めているということが挙げられます。
4. 今後の展開
いかがでしたでしょうか。前回と今回の中間報告によって、STEAM教育の源流であるアメリカの歴史や、アジアの国々がSTEAM教育をどうローカライズしてきたかについて理解できたかと思います。次回は、いよいよ日本でどのようにSTEAM教育が受容されてきたかに関する研究報告が行われる予定です。Makeblockから研究会に関わる情報等を発信いたしますので、本研究にご関心のある方は jp@makeblock.com までお問い合わせください。