Makeblockでは、製品をご導入いただいたお客様のインタビュー企画を実施しています。第1弾は、デスクトップ型スマートレーザーカッター「Laserbox」をご使用いただいている、世田谷ハツメイカー研究所の代表でもあり、株式会社 Azhai Communications 代表取締役の久木田寛直様(以下「久木田先生」)と、講師の齋藤響様(以下「響先生」)に取材させていただきました。
ー 久木田先生は、2015年より「mBot」を使ったプログラミング教室を展開されていますよね。レーザーカッターはいつ頃から使われていたのでしょうか?
久木田先生:3、4年前、世田谷ものづくり学校の中にFabLab Setagaya(以下「ファブラボ」)がオープンしてから使いはじめました。当時、響先生が週一でファブラボのスタッフとしても働いていたので、mBotの規格(4mmピッチ)に合うパーツのデータを作って、レーザーカッターでアクリル板に切り出してもらっていました。
ー 本当だ、たくさんパーツを作られていますね。どのように使われているのでしょうか?
久木田先生:mBotに接続して拡張したり、このパーツを使ってスライダークランク機構を学んでいる子もいます。個人的に、ただ描いた絵を切り出して完成、というレーザーカッターの使い方は教える必要が無いと感じています。最終形態を作るのではなく、あくまで、自分がモノを作るための道具やパーツを手に入れるために使ってほしいと考えています。
私が好きな画家や漆の職人たちは皆、筆やハケ、つまり彼らの商売道具を自分で作っているんですよね。様々な素材の中から自分の好みに合うものを見つけて、道具を作って、それを使って作品を作る。彼らのように、レーザーカッターを使うときも、あくまで「自分が表現するための道具をつくるための道具」だと捉えてほしいというのが私の考えです。
ー その点、まさに今久木田先生が運営に携われているMakeX SPARKのテーマ『Future Home』では、そのような課題を出されていますよね。
久木田先生:そうですね。6月から毎週土曜日に開催している無料オンライン講座『MakeXへの道』には、ちょうど課題の作品を作る過程で、柱や壁をLaserboxを使って切り出している子がいます。カッターで切ることもできるけど、自分でデザインや設計をして、レーザーカッターでこうした1つ1つのパーツを制作できるという点が良いなと思っています。
ー 素晴らしい作品になりそうですね。実際にオンラインでレーザーカッターを使う講座を行われて、発見したことや感じたことはありますか?
久木田先生:以前、とある教育委員会の先生が、「知識のインプットはオンラインでできたとしても、子どもたちにとっては、教室で自分と向き合ってくれる存在(教師)が目の前にいるということが大事で、オンラインではその実現が難しい」と仰っていたことがありました。ただ、実際にオンライン講座を行って、参加者が送ってくれた課題のデータを見ていると、その子がどういうことを考えているのかを感じられるし、彼らとちゃんと向き合うことができる気がしています。
コロナ禍で、子どもたちが上手く学びを進められない状況に対して「何かできないだろうか」と考えながら講座を始めた側面もありましたが、オンラインでも十分に講座を行えますね。ただ、同じ空間の中で一緒にモノを作っていく思い出は作れないかもしれません。
ー 実際にオンラインや教室で子どもたちと直接やり取りしている響先生はどう感じていますか?
響先生:特に大きな問題はありませんが、オンラインだと、送ってくれたデータのデザインが間違っていたり、ミスをした子どもへの修正に対するフォローのひと手間が必要で、ときどき難しさを感じることはありますね。私の方でデータを直接修正することもできますが、各自で直してもらった方が良いなと思っています。
久木田先生:最近データを提出してくれた子は、加工をしてから作品を郵送で送ってあげたら「寸法が間違ってた!」と言ってましたね。実際に自分でデザインをしたデータの間違いに気付けるのは大事かなと思います。やはり瞬時に気付けた方が良いという意味では、対面での方がやりやすいこともありますね。
ー なるほど、そうですよね。今後、Laserboxをどのような講座の中で使いたいと考えていますか?
久木田先生:「人間の手で切る形の自然の美しさ」と、「機械が切るものの工業製品的な考え方や綺麗さ」をどちらも知ってほしいと思っています。私はエッシャーという画家が好きで、今年に入ってから講師の井黒さんとタイル画を作るプログラミングの講座を実施しました。この時はカッティングマシンを使っていたのですが、紙の素材を使ったため見た目も強度もイマイチで。レーザーカッターを使って、他の素材でこれと似たような講座を行ってみたいなと考えています。
ー エッシャーのタイル画って、パズルのように組み合わせて作るんでしょうか?子どもたちには、デザインや設計の工程がなかなか難しそうですね。
久木田先生:そう、実際には離散幾何学の構造で作られています。駿台電子情報&ビジネス専門学校でも教えたことがありますが、高校生くらいまでの知識があれば、正四面体を展開させてタイル画を作ることができます。子どもたちに教える場合にはもっと簡単に、4つの辺のAとCをBとDに移動させてくっつけさせる、というやり方でも教えることができます。複雑な数学だけど、簡単に考えることもできるというのが面白いですよね。
ー 小学生から高校生まで、異なる方法で教えられているんですね。工夫されている点はありますか?
久木田先生:私は、昔から算数や数学は全然興味が無かったけど、美術の授業や絵を描くのが大好きでした。ある日、「エッシャーのタイル画のような絵を描くためにはどうしたら良いんだろう?」と考えたんですね。そしたら、算数や数学の知識がすんなり入ってきて、突然学ぶ必要性に駆られたんです。
私のような子どもは結構多いと思っています。例えば、三角関数のsin、cos、tan(サイン、コサイン、タンジェント)をいきなり教わっても、「何に使うんだ?」と思ってしまうけど、私のように、三角関数を学んだら自分が描きたい絵が描けるようになる、というアプローチだと、学習がちゃんと身に着くと思うんですよね。
ー絵を上手く描きたいという動機から興味を持って算数や数学を学ぶ、というのはまさに教科横断型のSTEAM教育の要素にも繋がりますね。
久木田先生:まさに、私が今プログラミング教育やSTEM教育を行っている根底にはそれがあります。自分は絵や音楽にしか興味をもてなくて、算数や理科は嫌いじゃなかったけど、ただ必要性が感じられなかっただけ。だから、もっと授業の中で学ぶ必要性を感じさせられるような仕組みを作ることが、これからの教育では特に重要なんじゃないかと思っています。
ー なるほど。Laserboxを使い始めてから、子どもたちの変化について何か感じられる点はありますか?
響先生:元々教室に設置されていた3Dプリンターにも全く興味の無かった子が、LaserboxをきっかけにCAD(ソフトウェア)を使うようになりましたね。3Dデータは、作るのが大変だったり加工に時間がかかる一方、レーザーカッターだとすぐに製作物ができるので、「こうやって加工できるんだよ」というのを一度見せてあげると興味を持つ子がいます。レーザーカッターをきっかけに、3Dデザインにも取り組み始めたりするのは面白いですね。
ー加工時間が短いからこそ、子どもがより多くのトライアンドエラーを通じた学びがありそうですね。メイカー教育の意義や価値についてのお2人のご意見を伺えますか?
響先生:私は学生時代にグラフィックデザインを学ぶ中で3Dプリンターやレーザーカッターを使っていました。今教えている子どもたちが、3Dプリンターやレーザーカッターを使うことで自分の興味を広げるきっかけになったり、実際に作りたいものができた時に不自由なく使える、というのは素晴らしいと感じています。
久木田先生:5年前、mBotに出会ってからロボットプログラミングを始めましたが、気が付いたのは、意外と日本では自分でモノづくりをする人が少ないなということです。どちらかと言うと、すでに仕上がっている、壊れない完璧なものを買うことに多くの人が目を向けているように感じています。
しかし、これからは自分で必要なものは自分で作れる、というデザイン思考のスキルや目線が大事になっていくと思います。作りたいモノがあったら自分で作る。モノが壊れたら自分で直す。その過程で自ら情報を得て、見極めて、分かる人に聞いて、他者と協力し合いながら、どうしたらより良いモノを一緒に作れるかを追求できる能力が重要になると思っています。ハツメイカ―研究所やオンライン講座も、それに取り組める居場所やコミュニティのような立ち位置になったら嬉しいと考えています。
ー まさに、講師をも巻き込んだチームで取り組むPBL(問題解決型学習)のような形ですね。それでは最後に、Laserboxはどういう人や用途にぴったりだと思いますか?
響先生:以前ファブラボで借りていた産業用のレーザーカッターと比較すると、小学生でも切り出すための出力設定や、データの作成が簡単だなという印象がありますね。子どもたちが安全に、簡単に使う機器としてぴったりだと感じています。
久木田先生:レーザーカッターでできることを教えたり、子どもたちに考えさせるような教室、授業の中で使えると思います。もしくは、新しい技術の授業に上手くハマると面白いんじゃないかとも考えています。これからは、学校の授業の中でもデジタルのツールや素材を、既存の教え方と掛け合わせていくことが多くなっていくと思いますので、そこで使える授業内容が作れると面白いなと感じています。
あとは、ファブラボでの利用や、海外の学校を視察した経験から、導入時に「素人でも取り扱えるものかどうか」は重要な点でした。Laserboxは操作や管理のしやすさの点でとても使いやすいし、子どもが描いた絵もすぐ加工できるので講座の幅も広がりますし、同じような考えを持つ方にはぴったりかもしれませんね。
ー ありがとうございました!
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